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昆布もヒネ物が旨い

 

とは、以前より聞いておりました。取引先の昆布屋さんと話をすると、

 

「 天然物の昆布の出来たては、まだまだ繊維が硬いので、ダシが出にくいんですよ。
  例えば、天然の利尻昆布ですが、この昆布が持っている旨味を100とすると、
  新物は、そうですね60くらいしかダシが出ません。

  でも、1年間寝かせると、繊維が柔らかくなって、
  100%昆布の旨味を引き出せるんですよ。

  だから、ヒネ物しか使わないお料理屋さんも、少なからずいますよ 」

 

と、皆さん、異口同音におっしゃいます。ちなみにヒネ物とは1年間寝かせた物。2年寝かせると大ビネになります。数年前、某昆布屋さんが新宿の伊勢丹さんの地下で、行き交うお客様に、新物とヒネ物の味比べをしていただいたそうです。すると、殆どのお客様に新とヒネの味の違いを分かっていただけたとか。

 

本業は鰹節屋であるとはいえ、私も昆布を扱う商人の端くれですので、この新とヒネの違いを自分自身の舌で確かめねば、と思い続けていたのですが・・・弊店は『一年分の昆布を仕入れて、次のシーズンまでに売り切ってしまう』この方法で長らく昆布を商ってきたので、ヒネ物を持ったことがありません。つまり、実験したくても出来ないのです。本当は、どこかでヒネの昆布を手に入れば試せるのですが、正直な話、私、昆布の味がどうしても好きになれない(やっぱり、ダシは鰹節が一番と思っています)ので、ついつい億劫で・・・掛け声だけで実行しなかったのであります。

 

ところが、今年(2007年)の初めだったと思います。とあるお客様と昆布について話す機会がございました。この新とヒネの味の違いの事、そして、自分自身があまり昆布が好きではないので、わざわざ昆布を在庫してまで実験をする気になれなかった事も話をしたところ、有り難い事に、2001年~2005年までの利尻昆布(当然、天然です)を、そのお客様から頂戴したのであります。さすがの私も、ヒネ物の昆布が手に入れば、味の違いを自分の舌で確かめてみたくなります。今年(2007年)の10月、礼文島から新昆布の第一弾がつくと、早速、実験開始と相成りました。

 

冷蔵庫でダシをとりました

2001年産、2002年産、2003年産、2004年産、2005年産(ここまでは顧客様にいただいた昆布)、2006年産(昨年弊店が仕入れた昆布)、2007年産(出来たてのホヤホヤの昆布)の天然利尻昆布、そしてついでに、2006年産の羅臼昆布があったので、全部で8種類、それぞれ水に漬け、一日半かけてダシをとりました。

 

2001年~2004年

まずは、色比べ。利尻昆布7種類をグラスに入れ、眺めます。濃い順に、2005年、2001年、2002年、2004年、2003年、2006年、2007年となりました。もっとも天然の昆布ですから個体差があるので、色の違いは寝かせた時間だけに因るものであるとは言い難いのですが・・・なるほど、色が年によって違います。

 

2005年~2007年

さて、肝心の味比べです。最初に2007年(新物)を口にふくむと、利尻昆布らしい甘い味がしました。次に、2006年(ヒネ物)を口に入れた瞬間、本当に驚いた。ビックリするほど味が濃いのであります。慌てて2007年を、もう一度、口にふくむと、今度はやけに水っぽく感じます。おまけに磯臭いというか植物臭いというか、違和感のある香りが口の中に残ります。比べたからこそハッキリと分かったのだと思います。まさしくこれが、新物とヒネ物の味の違いです。誰が何と云っても、ヒネ物の方が数倍甘いダシになっている。

 

ここで大ビネ(2005年産)のダシを口に入れると、また違う味。確かに甘い昆布ダシなのですが、スッキリしていて実にまろやかなんです。ヒネ物は、昆布ファンなら泣いて喜びそうな、実に濃厚な甘いダシですが、ある意味、攻撃的な味。昆布が苦手な私には、ちょっとキツイのであります。一方の大ビネ、きちんと昆布の甘みはするのですが、味が柔らかいので、私の喉もすーっと通ってしまう。このダシなら、私も好きになれそうです。本当の昆布ダシの旨さを生まれて初めて経験したと云っても過言ではありません。その後、2004年、2003年、2002年、2001年と順番に味見をしたのですが、私の味覚がそれほど鋭敏でないせいか、正直な話、大ビネ(2005年産)のダシと大差ありませんでした。

 

「百聞は一見に如かず」とは云いますが、今回、生まれて初めて、新物、ヒネ物、大ビネの味比べをしたところ、予想以上に味の違いを感じる事ができました。食べ物の場合は、まさに「百聞は一食に如かず」。お陰様で、昆布の旨さを再発見することができました。新物の昆布だって、それはそれで、昆布の味がして旨いのですが、比べてしまうと、ヒネ物の方が、断然しっかりとしたダシになっていました。

 

そして、一番旨かったのは大ビネ。鰹節に例えると、ヒネ物は荒節のように濃厚な風味がするのですが、大ビネはまさに本枯節。雑味がないので実にスッキリとした甘いダシの味がしました。この大ビネの昆布と本枯節で赤だしを作ったら、これが旨いのなんの・・・昆布と鰹節の真の相乗効果を生まれて初めて舌で感じたのであります。

 

実験終了後、残っていた羅臼のヒネ物を味見したんですが・・・驚愕の味の濃さ。「これでもかっ」て云うくらい昆布の味がしたのであります。昆布の味が大好きな方には、やっぱり羅臼昆布が「昆布の王様」に違いない、と心の底から納得した瞬間でした。

 

築地仲卸 伏高 三代目店主 中野 克彦

 

 

追伸1:

上記で説明している「昆布を寝かせると旨くなる」話ですが、2011年10月12日放送のNHK「ためしてガッテン」で 取り上げられました。題して「ついに皆伝!京料亭に伝わる昆布ダシの奥義」。番組によると、昆布に含まれている多糖類(ヌルヌル成分)が 時間の経過と共に、昆布内のアミノ酸と反応し、「アミノカルボニル反応」が起こり、甘い香りの成分が生成され、昆布が旨くなるとの事。 詳しくは「ためしてガッテン 昆布ダシの奥義」で検索して番組ホームページをご覧ください(すいません、NHKさんにリンクの許諾をいただいていないのでお手数をおかけします)。

追伸2:

2007年秋より、昆布の仕入れ方針を変えまして、ヒネ物の昆布を販売するようになりました。在庫があれば、尾札部白口浜元揃羅臼昆布利尻昆布はヒネ物をお届けしております。ぜひ、ヒネ物の実力をお確かめください。

 

もっと詳しい昆布の話

 

 

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