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きちんと蕎麦の味のする乾麺を作る
こんなプロジェクトを始めたのですが・・・
少なくとも、毎年一つは扱い商品を増やしたいと考えております。実際、ここ数年間、春には新商品の紹介をしてまいりました。「伏高さんの選んだ蕎麦が食べたい」等のご要望を以前より多々いただいているので、そして、私自身も大変興味を持っている商品なので、次回の新商品は「乾麺の蕎麦」と心に決めて、昨年(2008年)の秋から行動を始めました。
まずは市販の乾麺を手当たり次第に試食。パッケージの原材料欄を見ると蕎麦粉100%の乾麺から、小麦粉の方が多い商品まである。つなぎとして使っている材料も山芋、海藻、澱粉、小麦蛋白等々、商品によりマチマチで、実に多種多彩な乾麺が世の中に出回っているようです。
最初は単純に「蕎麦粉100%が一番旨いのでは」と想像していたのですが、実際はそうでもありません。お蕎麦屋さんで食べる手打ち蕎麦とは、やっぱり違います。今まで、30種類近くの乾麺を食べましたが、「これを売りたい」と強烈に思うモノは皆無だった。そこで、オリジナルで「これを売りたい」と思える乾麺を作るべく、ツテをたどって長野県にある乾麺製造家を紹介していただき、乾麺の勉強に伺ったのが昨年(2008年)10月初旬でした。
製麺屋の社長さん、直々に、駅までお出迎えくださいました。昼時だったので、工場に行く前に腹ごしらえ、地元のお蕎麦屋さんでご馳走になったのであります。まずは「そばがきの素揚げ」が登場です。生まれて初めて食べたのですが、コレ相当にいけます。ビールの肴にうってつけ。そして、もりそば。しっかりとコシがあり旨い蕎麦でしたが、東京の蕎麦屋さんのとは、ちょいと風味が異なります。「ふーん、これが信州の蕎麦なんだ」と思いながら食べ終え、製麺工場に向かったのであります。
工場に着くと、まずは製造現場の見学です。乾麺の製造工程は、極めて簡単に言えば、蕎麦粉と小麦粉に水を加えて捏ね、ローラーで平たく延ばし、カッターで麺の形状に切り出し、乾燥させて出来上がりです。要は「手打ち蕎麦」を乾燥させたような食品ですが、この乾燥が曲者らしい。普通に作ったのでは、乾燥させた麺を、再び茹でても、生麺と同じような味や食感にはなりません。そこで、山芋、海藻、澱粉、小麦蛋白等々のつなぎ材料を使うなど、工夫が必要です。
また、乾燥中に、蕎麦の香りは飛んでしまうらしい。話を聞くと、乾麺の蕎麦には限界があり、何をどう工夫しても、生麺と同様にはならないとの事。なお、蕎麦粉100%で作った乾麺の蕎麦も存在しますが、つなぎ材料を使わない代わりに、蕎麦粉を特別な方法で製粉しているそうですから、やはり、普通の「手打ち蕎麦」とは別物のようです。
この様に、のっけから乾麺の限界を知らされたのですが、その中で旨い乾麺作りを模索すべく、その製麺屋さんの製品を数種類、試食させていただきました。当然のことながら、それぞれ味も食感も違います。3つめの試食の後、社長さんに質問しました。
中野 | 「今食べたモノより、さっきの方が蕎麦の味がすると思うのですが、 何が違うのですか?」 |
社長 | 「おかしいですね、今の方が蕎麦粉は多いんですよ」 |
その瞬間、かなり動揺した私ですが、気を取り直して
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中野 | 「お恥ずかしい話ですが、私は蕎麦の味を知らない、って事ですよねぇ」 |
社長 |
「知らない人は沢山いますから、恥ずかしくも何ともないですよ 今、そばがき、作りますから、ちょっと待っててくださいね・・・」 |
と席を立った社長さん、しばらくするとお椀を片手に戻ってきました。
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社長 |
「こうして、蕎麦粉にお湯を加えて箸でかき回すと、一番、味が分かります 信州産の新蕎麦、今日挽いたばかりの粉ですから、味を確かめてください」 |
社長さんに即席で作っていただいたそばがき、一口食べると、強烈な風味が口中に広がります。口から鼻に抜けていく香り、どこかで感じたと思ったら、その日のお昼に食べた「もりそば」だったのであります。
中野 |
「これが蕎麦の味なんですか、東京じゃあ、味わったこと、ないです 情けないけど、今日まで本当の蕎麦の味を知らなかった、って事ですよね」 |
社長 |
「まあ、そう落胆なさらず・・・食感が良い蕎麦が一般ウケする時代ですから しっかりと蕎麦の味がする麺を出す蕎麦屋さんは、ほんと、少ないのですよ」 |
衝撃的な事実を突きつけられた私ですが、言われてみると社長さんのお説の通り。
白状すると、コシがあり喉越しが良い蕎麦を、鰹節が利いている蕎麦汁で食べると「ココの蕎麦屋は旨い」と思っておりました。極端な話、蕎麦には食感だけを求め、蕎麦汁の味で食べていたのであります。鰹節屋ですから、旨い汁を重視するのは当たり前ですが、蕎麦自体の味を二の次に考えていた、いや、蕎麦の味を知らないで食べていたとは、本当にお恥ずかしい限りであります。
東京に戻るなり、築地、銀座近辺の蕎麦屋さんを食べ歩きです。きっと嫌な客に見えていたハズ。何たって、ほぼ半分は、蕎麦汁を使わないで、蕎麦だけを食べるんですから。
食べ歩いて改めて驚きました。普通の蕎麦屋さんじゃー、蕎麦の風味がたっている麺なんか出て来やしない。もり一枚が千円もする「生粉打ち」と称される、蕎麦粉だけで打った蕎麦だけが、あの味あの香りがするのです。ついでなんで、某有名立ち食い蕎麦チェーン店でも食べましたが、バッチリ小麦粉の味がしたのには笑ってしまった。
製麺屋の社長さんの仰るように、今の時代、人々が蕎麦に対して求めているモノは食感であり、味は二の次なのでしょう。だから、コシがあって喉越しの良い乾麺を売るのが商売的には正解なのでしょうが・・・。でも、蕎麦本来の風味を味わい、衝撃を受けてしまった私ですから、蕎麦の風味が第一と、どうしても考えてしまいます。乾燥中に香りが飛んでしまうので、乾麺に香りを求める事は難しいでしょうが、せめて味だけは、しっかりと蕎麦の味がする乾麺を作りたい、と心に決めたのであります。
かくして、「きちんと蕎麦の味がする乾麺作りプロジェクト」がスタートしたのでありますが・・・正直な話、苦戦をしております。
10月中旬、長野の社長さんに「食感はそこそこで結構ですが、しっかり蕎麦の味がする乾麺を作ってください」と正式にお願いし、試作品が届いたのが12月中旬。ワクワクしながら食べたのですが、残念ながら、期待していた程ではありませんでした。
そこで「価格の事は気にしなくて良いので、とにかく蕎麦の味がする麺を作ってください」と、再度、お願いしたのですが、いまだに試作品は届きません。何軒もの製造家に声をかけ試作の依頼をするのは無節操なので、今は、長野の社長さんだけにお願いしています。
実は、しっかりと蕎麦の味がしそうな乾麺を、ネットで見つけては試食しているのですが、きちんと蕎麦の味がする乾麺は皆無。それだけに「きちんと蕎麦の味がする乾麺作りプロジェクト」、字で書くのは簡単ですが、商品化までの道のりは険しく遠いに違いない。本来であれば、この5月か6月に乾麺の蕎麦をお届けしようと思っていたのですが、すでにそれは諦めました。今年の秋、いや来年の春までに、何とかお届けできればと思っております。
築地仲卸 | 伏高 | 三代目店主 |