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黒川 春男

築地の風景

by 築地本店店長、黒川春男

2013 20

築地へ出勤する頃は、まだ闇の中。夜明けは次第に遅くなり、日が短くなってきた。なのに昼の太陽はチクチクと肌をさす。先月、帰省した鳥取も、あ・つ・い。  

ケアハウスで暮らす父親。主の居ない実家は空き家となって早1年半が経つ。人の住まぬ家屋は傷みがひどい。リフォームして倉吉市の空き家バンクに登録するなり、売るなりしようと、おやじと家族皆で相談して決めた。

帰省初日から、早速、家に向かう。庭木も雑草も伸び放題。ドアを開けて中に入ると、淀んだ空気がカビ臭い。頭をタオルで巻きマスクをかけ、軍手をつけて、残す物、捨てる物をゴミ袋に詰めていく。窓という窓を開け放ったので暑い。クーラーを最大出力に、扇風機を何台も廻し、空気清浄機も最強にするが汗が止まらない。物持ちのいいおやじを恨む。つまらない物が、これでもかと出て来る。空ビンに入った小銭が何本も。引き出しの中には、びっしりと書類や古い財布、タンスの衣類も半端じゃない。古い写真が出て来ると作業は中断。

お袋の葬式の時の香典袋が箱にぎっしり詰まっている。ゴミ袋に捨てようとしたした時、長女が、「ちょっと待ちないな」と袋を開封していく。名前の書かれてない香典袋から、三万五千円が出て来た。親父が入れて忘れたのか。「何じゃそりゃ」と皆で手分けして開封開始。しばらくして、私、一万円発見。姪っ子、三千円。最後に次女、二千円。危うく捨てる五万円だった。びっくり。

最後に台所の仕分けが残ったが、手がつけられない。調味料、ビール、日本酒、すべて期限切れ。食器棚の中の茶碗、皿、コップ、ナベ、何とか焼き器、卓上調理器と半端ない。ポリバケツがビニールで、しっかりヒモでくくられてある。漬物、梅干、味噌か。とても開ける勇気がない。めぼしい物だけ残し、後は、残った物全部、ゴミ回収業者さんに処分してもらう。

最終日におやじを連れて行く。残す物、捨てる物の再確認。あれもこれもと追加もなく、あっさり頷く。物欲ゼロ。一応の仕分けを終える。晩ご飯作るのも外食するのも面倒だからとモスバーガーでテイクアウト。風呂を浴び、ハイボールを飲むと、いちころで眠った。

翌日は皆生温泉へ一泊の旅。香典袋から出て来た五万円が大助かり。露天風呂がかなりはなれていたので、内風呂でおやじを洗ってやる。一回りも二回りも小さくなったおやじ。テレビで、島根と山口の県境あたりでゲリラ豪雨で床上、床下浸水する被害が出てるとのニュース。皆生でも大粒の雨が降ったが、すぐに上がった。

築地に出勤すると、「濁流に流されたんじゃって心配してたんです」と店の一同、ニタニタ笑ったいる。いつまで経っても、鳥取県と島根県を取り違える。「この地理音痴どもめ!!」。

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