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黒川 春男

築地の風景

by 築地本店店長、黒川春男

2012 20

毎月、月末となると届く写真付きの翌月のカレンダー。近所の自動車整備会社の社長が手渡してくれる。写真が趣味らしく、先月は金環日食の写真だった。築地場内の茶屋へ注文の品を運ぶ旧式自転車が頻繁に故障する。頑丈な造りだが、すでに時代遅れ。パーツは不足。場内の自転車屋さんが音を上げ、これ以上修理不可能と言われた時、カレンダーを配る社長に、自転車の修理は出来ますかと尋ねると、「もちろん」と快諾。以来、故障知らず。営業の勝利。

 

先月中旬、日本橋三越本店で「森繁久彌・向田邦子展」をのぞく。四十年前の国民的ホームドラマ「寺内貫太郎一家」の脚本家。そして直木賞作家となった向田邦子。そこに至まで、森繁久彌に見い出され、自分の出演するラジオ・テレビ番組の台本を任せられ、それに応えようとする邦子は必死だった。才能がおやじに更に磨かれ、玉となる。邦子の台本に激しく朱筆を入れたのだ。眼力ある人と才能ある人の理想的師弟愛。

 

これから、更に活躍と期待された矢先、台湾上空の飛行機事故であっけなく他界。五十一歳。若すぎる。

 

三十年前、向田邦子の死のその頃、私は、東宝帝国劇場の地下六階の稽古部屋に椅子を並べただけの劇作家養成講座に、週二回通った。研究科を含め、丸四年。その頃は、舞台台本のみならず、テレビシナリオまで読み漁った。その時に向田邦子に出会い、惚れた。が、その才能に打ちのめされた。三越七階の新館ギャラリーに向かう時、昔の恋人に再会する様な、ときめき。邦子ちゃん、美人ですから。

 

時代は目まぐるしく変わり、商業演劇は様変わりした。帝劇はジャニーズのミュージカル一色となり、日比谷の芸術座もシアタークリエと名を変え、レビュー、コミック一色、ブロードウェイからの輸入物ばかり。そんな訳で、東宝劇作家養成講座も五年前から中止。

 

先日、シャボン玉ホリデーで司会をしていたザ・ピーナッツ伊東エミさんが亡くなった。この頃から、テレビの黄金時代は始まった。そして、向田邦子、山田太一、早坂暁、倉本聰等のテレビドラマ黄金期が続き、歌手タレントのトレンディードラマと続き、テレビが突然、面白くなくなった。大人の鑑賞に堪える番組はますます減り、子供もテレビからゲームに夢中になっていく。高学歴タレントとそうでないタレントの教科書的知識の競い合い。人生に必要な教養とは無縁。あちらこちらとチャンネル出まくりのお笑いタレント、面白くも何ともない。テレビが売れない筈だ。テレビ局の広告収入が激減するも自業自得。低予算は低企画へと下降スパイラル。NHKだけには踏みとどまって欲しいが、これも怪しい。

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