鰹節の伏高トップページ伏高コラム/レシピ築地の風景

黒川 春男

築地の風景

by 築地本店店長、黒川春男

2018 23

大寒が過ぎ立春はもうすぐ、しかし今年の寒波は強烈なのだ。築地に通勤する朝四時半は真っ暗で氷点下三度。完全防寒の着ぶくれなので自転車は遅々として進まない。ペダルをこぐ足に力が入ると、しぜんとあの鼻歌が思い浮かぶ。早春賦のフレーズだ。「春は名のみの 風の寒さや 谷の鶯 歌は思えど 時にあらずと 声も立てず 時にあらずと 声も立てず」。何故この歌なのか分からぬ。    

近所のトリトンスクエアにあった二階の大型書店が閉店したが、一階のコンビニに書店が併設された。書店経営の進化系。そこで買った、「阿川弘之 『食味風々録』(阿川佐和子さんの父で小説家の自叙伝的随筆集)」の一項目「福沢諭吉と鰹節」が面白かったので抜粋転載させてもらいます。慶応三年夏、五ヶ月間にわたる二度目の訪米を了えて、アメリカの汽船「コロラド」号で横浜へ帰ってくる福沢諭吉が、日記の裏表紙に、下船したらすぐにも食べたいものを列記している。

・うしお すずきまたはくろだい

・あらい 同断(前に同様)

・酢の物 海老防風 ・茶碗 うなぎの玉子むし ・わさび花鰹節

・したし物 ほうれんそう

・ゑだまめ

・鰻

・飯

一途な洋学者で衣食住のすべて西洋風が一番だと信じる念が骨に徹していると言い切った諭吉が、陸上、洋上でアメリカ料理ばかり食わされ続け、ついに悲鳴を上げ、横浜に着いたら食うぞと思っていた「夢の献立」なのだ。肉を食いたいと一言もない。 阿川氏は、その中の「わさび花鰹節とは、阿川氏が大好物のおかかごはん」だと見抜く。阿川家のかつぶし飯は、弁当箱なり小鉢なりへ、炊きたての白いご飯を軽く入れて、それに醤油でほどよく湿らせた削り節をまぶす。その上へ、うっすらとわさびを添え、 黒い海苔一枚を敷きつめ、それを二段重ねして、蓋してむらして、味がしみこむまで待つ。鰹節は、鰹節削りで丹念に削った花鰹を使うのが心ずくしだと。

先輩小説家、小島政二郎のエピソードも。小島宅に魯山人が遊びに来て、いきなり言った言葉が、「鰹節削りを見せたまえ」と一言。鰹節が本物であるかどうか、鰹節削りのカンナがよく切れるかどうかで、その家の料理の関心度が分かるという意味だろうと。阿川家の削り節は、時間がない時は「削りぶしフレッシュパック」で間に合わせたともらす。手間を省くのはご時世なのかと。

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