・ ・ ・ かくして、セリ人が目利きした 干貝柱をお届けすることになりました
昨年(平成17年)11月、干貝柱を次の新商品にしようと決め、勉強を始めました。鰹節屋の私ですから、正直な話、干貝柱の知識は無いに等しい。そこで、塩干物を専門にしている築地の方々に「どこ産の、そして、どんな干貝柱を仕入れれば良いの?」と聞き回ったんですが、皆さま口々に「猿払(さるふつ)を買えば間違いないって言うけどねぇー、でも・・・」と何となく自信がない答えが返ってくる。
よく考えてみると、塩干物を扱っている仲卸は沢山あれど、干貝柱専業なんて店、聞いた事がありません。何たって日本で生産される干貝柱の2/3は香港やシンガポールに輸出されてしまうので、日本での流通量は残り1/3。ですから、築地あたりには干貝柱専門の業者さんがいるわけがありません。これでは、到底、商品化なんてできゃしない。
「ねー、一応は天下の築地なんだからさー、河岸ん中に1人くらいは、干貝柱の事なら何でも知ってる干貝柱博士がいるんじゃないの? 紹介してよ、お願いだから。」と、困り果てて、煮干の仕入先に頼み込んだ。すると煮干屋の社長さん、5秒くらい考えて、「そしたら、東市のセリ人を紹介してやるよ。この人なら、毎年、産地に行くし、ベテランだから、ちゃんと教えてくれると思うよ。」こんな経緯で、築地市場の大卸、築地魚市場株式会社(通称「東市」)の干魚課のセリ人、『佐藤 共生さん』を紹介していただいたのであります。
早速、佐藤さんを訪ねました。「干貝柱はオホーツク沿岸、噴火湾(函館)、そして、陸奥湾(青森)で作られているけど、伏高さんが売るならオホーツクだろうね。なぜって、オホーツクには、毎年、流氷が来るでしょ。その流氷がプランクトンを運んでくるんだね。栄養満点のオホーツクで育ったホタテが原料だから、旨い干貝柱ができるって訳。」
さて、ここからが本題です。「オホーツクの干貝柱を仕入れた方が良い事はわかりましたけど、オホーツクのどこ産を買えばいいんですか?」これが次の質問だった。
「まあ、猿払が一番良いと言われてるけど・・・これはブランドっていうか、神話なんだよね。猿払の貝柱は確かに良いですよ。でも、枝幸(えさし)、紋別(もんべつ)、常呂(ところ)、なんて浜でも猿払に負けないくらい良いヤツが出来てます。」
「ホタテって養殖なんだけど、人間は稚貝を海にまくだけ。あとは海の力で育つんだね。海も畑と同じ。ずっと同じ所で育ててばかりいると貝を育てる力が弱っちゃうみたいなんだな。それに自然が相手だから、海の状態も毎年変わるし・・・いい年もあれば悪い年もある。だから、浜の名前だけ見て買うんじゃなくて、現物を見て良い物だけを買う事ですよ。」
そりゃー、仰るとおりです。「佐藤さん、干貝柱の良し悪しって、どこを見て判断するんですか?」と、核心の質問に入りました。「色、艶、香り、あと、締まり具合なんかを見るんですよ。」と、素人には分かったような分からないような答えが返ってきた。
これは、今から16年前、私が父に鰹節の見分け方について聞いた時と同じです。もっとも父の場合はもっとひどくて「見て、良いと思うのが良い節。数多くの節を見れば、そのうち分かるようになる」ってな具合で、観点すら教えてくれなかった。ベテランになればなるほど良し悪しの感覚を体で覚えているので、素人なんかにまどろっこしい説明なんてできないんですね。
私だって、毎日のように、干貝柱を見て、触って、食べれば、一年後には良し悪しが見ただけで分かるようになるとは思うのですが、今、そんな時間はありません。話を聴きながら、ここは一番、佐藤さんに全面協力をしていただかねば干貝柱は売れないと思いました。
「あのー、佐藤さんが『これならバッチリ』と思った干貝柱を買いますから、毎回、オススメしてくれませんかねー。その代わり、値段が安いとか高いとかは言いません。佐藤さんが良いと思う干貝柱を佐藤さんが適正と思う値段で売ってくれればいいですから。」こんなお願いをしたのであります。
市場という場所はプロ同士が取引する所。買い手は、自分で商品の良し悪しや適正な価格を判断し、自己責任で買うのが基本です。ですから、私のようなお願いはちょっと王道から外れます。
「責任重大だなぁー。うーん。」としばらく考えた後、「分かりました、やりますよ。でもオレが気に入った干貝柱が無い時は欠品にしてよ。欠品はダメって言われちゃうと、やりようがないから。この点を了解してくれればやりますよ。」と快く引き受けてくれたのであります。
かくして、築地市場のセリ人が目利きした選りすぐりの干貝柱をお届けすることになったのであります。
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